2011年5月5日木曜日

3月15日 東京を襲った「見えない雲」
東京電力福島第一原発では、3 12 日の1号機と 14 日の3号機の爆発に続いて、15 日午前6時過ぎ に2号機で爆発が起こった。フランス大使館は 15 日午前の段階で「10 時間ほどで東京に弱い放射能が 到達するおそれがある」として、都内在住の自国民に外出を控えるよう勧告した。我が国の政府もテレ ビで解説する「専門家」も「健康には何ら影響の無いレベル」と繰り返しアナウンスした。
文科省が公表している「全国の放射線モニタリング状況」の東京を見ると 3 15 日のグラフには 2 つの山が記されている(次ページのグラフ)。1つは 10 時前後に 0.5 マイクロシーベルト、1つは 19 時 前後に 0.35 マイクロシーベルト。これを見る限りはたいした値ではない。しかし注意したいのは、こ れはガイガーカウンターのような計測器で計った外部被曝を意味する放射線量だということ。場所は新 宿区である。
3 18 日、大阪府熊取町にある京大原子炉実験所内で、原子炉安全研究グループが主催する「安全 ゼミ」が開かれた※。※安全ゼミのサイト http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/index.html
小出裕章さん(助教)は、「安全ゼミ」の直前まで行っていたという 15 日に台東区で採取された空気の 分析結果を公表した(表1)。
表1 3/15 台東区の大気の分析結果
これは空気中の放射能を吸引して分析したもので、 当日、あたりを歩いていた人々はこれらの放射能を吸 い込んだのだ。放射能の濃度はベクレルで表される。 それが人体に与える影響を放射線値に換算して示した のが実効線量で単位はマイクシーベルトで1日あたり の線量に換算されている。
小出分析は 210 マイクロシーベルト。ただし、吸引 できるのは粒子状の放射能に限られ、ガス状の放射能 は補足できない。小出さんの話では、それがヨウ素の 場合、「6~7 倍」あるのだという。それを加味すると「お よそ 1000 マイクロシーベルトと考えられる」という。
1000 マイクロシーベルトといえば即ち1ミリシーベ ルト。一般人の年間「許容値」に等しい。私たちが一 年間に浴びてもよいとされる値を、わずか1日で、そ れも吸い込んだことになる。決して「健康には何ら影 響の無いレベル」ではない。
11:14~12:14吸引
小出裕章さん分析
この日の「安全ゼミ」には推進サイドの専門家とおぼしき人も来ていて、小出さんにすかさず「15 日 の(放射能の)滞留は 3 時間だった」とクレームをつけた。小出さんは 24 時間で換算しているから、そ の 8 分の 1 が妥当だという意味だ。小出さんは「それは知りませんでした」と答え、やりとりはそれで 終わったが、私は引っかかっていた。
翌日、東京の友人が東京都産業労働局が世田谷区での放射能測定結果を公表していることを教えてく れた。それを見ると 15 日は丸 1 日放射能が滞留している。小出分析は都の分析結果より数値が高い。 一方は台東区で一方は世田谷区、23 区内に濃淡差があるのだ。
表2 3/15 東京都の大気の分析結果 (抜粋)
24時間吸引 世田谷区で測定 μSv/日は小出分析から比例配分 11:14~12:14 最も高い値が出たのが 10:00 ~ 11:00。その次が 11:00 ~ 12:00 で小出分析のデータ収集時間に近い。
濃度Bq/m3
μSv/日
10:00~11:00
11:00~12:00
小出分析※
ヨウ素-131
496.8
90
241
83
720
ヨウ素-132
518.9
0.9
281
102
450
セシウム 134
119.7
31
64
24
110
セシウム 137
112.4
20
60
23
130
合計
1247.8
141.9
646
232
1410
都のデータの最も濃度が高かった時間帯に近いところに小出分析のデータもあること。核種を都と合 わせれば 1 時間の比較では小出分析結果は 6 倍高い。
一方、都のデータの総量は約 1248Bq/m3 だが、小出分析のように核種を増やせば当然、値は増える。 ここから導かれる実効線量は都のそれは 142 μ Sv/日(小出分析より比例配分)、ガス状を加味して5倍 として 700 マイクロシーベルトほどということになる。つまり 1 日で 0.7 ミリシーベルト。小出さんは 1 日あたりおよそ 1 ミリシーベルトと推測した。いずれにしても文科省の広報値よりずっと多い。
文科省は外部被曝を示して「健康には何ら影響の無いレベル」と言ってるが、都のデータ、小出さん のデータはともに内部被曝で「健康には何ら影響の無いレベル」とはいえない数値だ。特に幼児、「成 長盛りの子ども」は内部被曝には要注意だから、フランス大使館が自国民に勧告したように、政府も都 民には「念のため外出を避けて窓を閉めるように」勧告すべきだった。
文科省サイトにある「全国の放射線モニタリングデータ」