特にひどいのが、人々の目を意味のない「放射線」に向けさせるという情報操作です。原発事故で最も危険なのは体内被曝をもたらす「放射性物質」ですが、放射線量を測っても放射性物質の量は分かりません。特に地表面以外の空気中で計測した放射線量には意味がありません。地表に放射性物質が降り積もっている場合、人間が接している地表の放射線量を測ればある程度の放射性物質量を予測することは可能ですが、モニタリングポストのあるビル屋上の放射線量と地表の放射線量とでは桁が違ってきます。政府は放射線量を低く見せるためにビル屋上で計測しています。しかもガンマ線という比較的弱い一種類の放射線の計測値しか公表していないので、そもそも氷山の一角に過ぎません(強い放射線は届く距離がミリ単位と短いので空間上ではほとんど計測できませんが、地表から舞ったものを呼吸したり食物や水に入り込んだものを食べたりして臓器に付着すれば体外被曝の何兆倍もの量の体内被曝をもたらします)。要するに発表される放射線量など見ていても全く意味がないということです(自分ですべての放射線を測れるガイガーカウンターを買って地表面の放射線量を測れば別ですが)。
身の回りの放射能の危険度については、放射性物質の累積降下量を知っておく必要があります。以下に文科省発表の都道府県別放射性物積降下量の累積値をまとめておきます。ただしここにも注意点があります。気象庁の3月11日 予報および原子力安全委員会の4月11日見解から、原発事故発生直後の数日は桁違いの量の放射性物質が東日本・首都圏に降っていたと考えられます。下の数値は19日以降の累積なので、3月11日から18日の最初の1週間のとんでもない量の放射能分がすっぽりぬけています。最初の分を入れたらたぶん下の数値の数十倍から数百倍にもなると思います。また一番肝心な福島と宮城のデータの多くが「計測不能」とかなっています。そしてヨウ素131・セシウム137以外の放射性物質の降下量データが全く公表されていません。他にもセシウム134やテルルやストロンチウムやプルトニウムなどいろんな放射性物質が放出されているのですが。政府の隠蔽体質によって、放射性物質降下量のデータもまた危険性を判断する上で十分なデータとはなっていません。米国政府の降下量調査データから少なくともセシウム134はセシウム137と同量以上降下していると考えられますので、放射性セシウムの全体量は下の値の2倍以上と考えてください。最後に、政府は0.1Bq/kg以下を不検出としているようです。米国政府は日本より2桁ほど小さい値まで検出データとして公表しています。以上のようにいろいろ問題はありますが、公表される放射線を見ているよりは有用な情報だと思います。
ところで文科省が群馬のデータをこっそり変えたのを発見したので修正しました。したがって群馬の累積降下量はかなり増えました。東京がホットスポットになっているのは風向きとかのせいなんでしょうか?よく分かりませんが茨城に次いで東京は降下量がすごいことになっています。
■ 放射性物質累積降下量(3月19日以降)
2011年3月19日(データ公開日)から4月24日までに地表に降った放射性物質の累積量(百万ベクレル/km2)。原発から放出されている数十種類の放射性物質のうち計測・公表されているのはヨウ素131・セシウム137の2種類のみ。3月11日~18日の桁違いに大量の放射性物質下降量はデータ未公表のため含まれていません。セシウム134の降下量データは公表されていませんが、米国の降下量データによればセシウム137とほぼ同じ量が降下しています。どういう影響が考えられるかについてはこちらへ。
ヨウ素131 | セシウム137 | 備考 | |
---|---|---|---|
福島 | 未公表 | 未公表 | 3月28日福島市:ヨウ素131=23000・セシウム137=790 |
宮城 | 未公表 | 未公表 | |
茨城 | 212726 | 28625 | |
東京 | 84939 | 6911 | |
山形 | 68692 | 8667 | 3月29日~4月3日までデータ未公表 |
埼玉 | 68574 | 3801 | |
栃木 | 61312 | 2809 | |
千葉 | 45787 | 4894 | |
群馬 | 21844 | 1460 | |
岩手 | 8186 | 801 | |
山梨 | 8018 | 836 | |
神奈川 | 5773 | 551 | |
静岡 | 360 | 139 | |
新潟 | 197 | 16 | |
長野 | 190 | 0 | |
秋田 | 128 | 27 | |
石川 | 14 | 0 | |
青森 | 11 | 0 |
■ 3月11日放出分の降下量は桁違い!
4月11日の原子力安全委員会の発表では、11日の事故発生直後の数時間には1時間あたり1万テラ(テラ=兆)ベクレルが放出されていた(現在は1時間あたり1兆Bq放出中)とのこと。このデータと気象庁の予報データと上記の降下量データを用いて、3月11日放出分の放射性物質が東京にどのくらい降ったのかを推定してみた。まず3月11日放出分の総量を低く見積もって3万テラBqとして、4月上旬の一日あたりの放出量を24テラBqとすると、4月上旬一日に比べて3月11日の放出量は1250倍であった。次に気象庁予報データによると、3月11日放出分の14日までの首都圏への降下量濃度は福島原発周辺の1万分の1(これも低く見積もっている)、4月4日放出分の7日までの首都圏への降下量濃度は同10兆分の1なので、3月11日放出分の降下量濃度は10億倍となる。1250X10億=12.5兆。4月7日の東京におけるヨウ素131降下量に12.5兆をかけると、65.6テラBq/km2(公表されている3月19日から4月10日までの東京のヨウ素131総降下量の700倍以上)というとんでもない数字になった。もっとも、東京に一様にこのような超高濃度放射能が降ったとは考えにくいため、あくまで風向きによっては東京でもこのくらい降った場所もあったであろう、という考え方になる。このことを裏付けるような情報がある。チェルノブイリ災害時に米国調査団代表を勤めたチャム・ダラス氏が都内の地表すれすれの放射線量(地表に降り積もった放射性物質の放射線をキャッチできる距離での計測)を調査したところ、新宿区と江東区の一部で福島県郡山市よりも高い放射線量の地域が見つかったという。こうしたエリアの都民の被曝量は相当なレベルだと考えられる。いずれにしても災害発生直後の数日のデータがないことは、累積降下量を考える上でとんでもないミスリーディングをもたらすということが分かった。
資料出所:文部科学省
※注意:西日本も安全ではない
他の放射性物質の降下量が公開されていないため、これはあくまで氷山の一角に過ぎない。緩すぎる食品・水の安全基準をこのまま放置すれば、放射性物質に汚染された水・食品が大量に出回るため、上記以外の地域でも今後内部被曝を避けることは難しくなる。東電によれば福島第一原子力発電所から最低でもあと数ヶ月、長くて数年間、放射能が放出され続ける見通しとのこと。くれぐれも"大気中の放射線量が低い=身の回りの放射性物質が少ない"などという勘違いをしないよう、お気をつけ下さい。
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